表紙

今月号の【カラー特集】は、平成26年度全日本選手権大会(一般・ジュニアの部)を、写真や優勝インタビューとともに振り返るという企画。

紙面からでもあの熱闘ぶりが十分に伝わって来る。
それほど今年の全日本は激熱で面白かったということだ。

そして全日本チャンピオンのプレーを連続写真で解説するのは、元全日本王者の渋谷浩さん。

一般とジュニアのチャンピオン4人(水谷隼、石川佳純、及川瑞基、伊藤美誠)の技術を分析し、丁寧に解説している。

例えば、
水谷隼のプレー「チキータレシーブ」では、フォアハンドグリップ(フォアハンドの時に打球面が開く。フォアハンドは打ちやすいが、バックハンドの時に手首が使いにくい)である水谷が、どのようにしてチキータを打っているのかを解説。
ラケットの握りがフォアハンドグリップでチキータが苦手という人は参考になるはずである。

伊藤美誠のプレー「バックハンドでの強打」では、精度と威力を兼ね備えた伊藤最大の武器であるバックハンドのラリーを取り上げ、その特長に迫っている。

バック面に表ソフトラバーを貼っている前陣型の選手の理想的な打法である伊藤のバックハンドは、同じプレースタイルを目指す人にとって必ず参考になると思う。
また「トップ選手に見る サービスの掟」のコーナーでは、伊藤美誠のサービステクニックを紹介しているので、そちらもぜひ参考に!

そして私が今月号で最も興味深く読んだ記事はコチラ↓

【単独インタビュー】水谷隼
『もう負けることは怖くない。少しでも理想のプレーに近づきたい』

今年の全日本で圧倒的な強さを発揮し、連覇・7度目の優勝を飾った水谷隼。
ここに至るまでの道程には、様々な辛苦と葛藤があった。
卓球界の至宝がたどり着いた新境地と、そのさらに先にある未来図を語る。

全日本の準決勝で水谷に4ー0で敗れた岸川聖也が「別次元の強さだった」とこぼしたほど、水谷の強さは他の選手とはレベルが違ったわけだが、その強さの最大の要因は「全日本に対する意識の変化かもしれない」と水谷は語る。

「初優勝した17歳のときから連覇を続けていたころは、タイトルを守らなければいけないという意識が強かった。負けるのが怖くて仕方がない。(中略) 誤解されると困るのですが、負けてもいいと思うようになったんです。以前は敗北を自分の中で受け入れることができなかったけど、今はしっかり受け入れられるし、負けるのが昔のように怖くはなくなった」

守りに回って優勝していた自分から、敗北を受け入れたことで、攻めのプレースタイルへと変わったという水谷。

守りから攻めに意識を切り替えるために味わったのは、大きな挫折であった。
全日本の連覇が5連覇で途絶え、停滞期に突入する。
第3シードで出場したロンドンオリンピックでは4回戦で敗れ、補助剤問題では国際大会出場を棄権し、翌年の全日本では丹羽孝希に決勝で敗れた。

水谷の卓球は攻めが遅い、中国選手に勝てるのは、丹羽や松平健太のスタイルだという周囲からの厳しい指摘も聞こえてきた。
どん底の精神状態だった水谷は、丸裸の自分と向き合い、一点の悔いにたどり着く。

「自分がまだ限界まで自分を追い込んでいないことに気付いたんです。限界までやりきって力が及ばないのなら納得できる。でも、僕は無意識のうちに自分が楽になる方向へ逃げていたのかもしれない。(中略) 諦めるのは、限界まで挑戦してからでいいと思いました」

そして水谷はロシアへ渡る――

その後の歩み、そして全日本の決勝での水谷の攻めの卓球の秘密については卓レポを確認してください!

さらに記事では、プラスチックボールへの対応で苦労したことが書かれている。

バタフライの研究者たちと様々な意見を出し合い、納得のいく用具を決めることができたのは、11月半ばになってからだったという。
その後、好調をキープしているように思われた水谷だったが、全日本直前にラバーにわずかな違和感を覚え、スポンジの硬度をほんの少し変えたラバーを新調。
練習でわずか10分しか打っていないというその新しいラバーで全日本に出場したというのだから驚きである。

プラスチックボールになっても、セルロイドボールとの違いをほとんど感じず、用具も変更しないという選手も多い中、スポンジの硬度をほんの少し変えるという微妙な調整をする水谷の繊細な感覚は、卓球の神に愛された者のみに与えられた特別な能力なのかもしれない。

私は全日本選手権を観戦し、これまでとは明らかに違う水谷の強さに度肝を抜かれ、いったい水谷に何があったのだ? ひょっとすると張継科ともつれ合いながら神社の階段から転げ落ちて中身が入れ替わった(昔の映画が元ネタ)のではないかと疑ってしまったのだが、このインタビュー記事を読んで、その謎がすっきりと解けた。

水谷は普段、「試合での勝利」ではない別のモチベーションを持って練習や試合に臨んでいるという。
水谷が意識する、勝利とは違うモチベーション。
その答えは、シンプルな言葉ながら実に深い(ぜひ卓レポでご確認を)。

水谷隼という男は、頭を使い常に卓球について考えているという印象が、私の中でますます深まった。

水谷が日々追い求めている理想のプレースタイルは、いつまで経っても完成することはないのではないだろうか。
水谷は、たとえどれほど強くなろうとも、満足するような男ではないように思えるからだ。

飽くなき探求心を持つ「発展途上の絶対王者」
これが私の水谷に対する印象である。

確実に今以上に強くなることを予感させる男に私は、水谷が普段は意識しないという「試合での勝利」を勝手に意識し、過剰なまでの期待を抱いてしまうのである。