本日ご紹介するのは、卓球をテーマにした児童小説「チームシリーズ」である。

卓球部を舞台に、様々なドラマが繰り広げられる青春小説で、2007年刊行の『チームふたり』から始まるシリーズは全部で5巻。

私はこの作品を知らなかったが、25万部を突破しているという人気卓球小説なのだそうです。

2013年にはソフトカバーで新装版が発売(全6巻)。
こちらには書き下ろしのスピンオフ短編などのおまけが付いているとのことで、より楽しめる内容となっているようだ。
シリーズの詳しい内容はコチラ→学研プラス 広報ブログ


ということで、私は今回、シリーズ第一弾の『チームふたり』を読んでみました(旧版の方)。

チームふたり (学研の新・創作)
吉野 万理子
学習研究社
2007-10



卓球小説にしろ卓球漫画にしろ、その舞台のほとんどは中学校か高校であるが、このシリーズは小学校の卓球部を舞台に物語が繰り広げられる。

本作の主人公は東小学校卓球部のキャプテン・大地。

6年生の大地は3ヶ月先の市大会が引退試合となるので、シングルスはもちろんのこと、ダブルスでも結果を残したいと意気込んでいた。
(ベス8に入れば県大会に出られる)。

最強のダブルスを組むために同級生の誠とペアになりたいと考えていた大地であったが、顧問の辻先生が発表した大地のパートナーは、5年生の純であった。

翌日、辻先生のもとへ出向き、不満をぶつける大地であったが、そこには先生なりの理由があった。

辻先生の考えを聞き、ある程度は理解した大地であるが、それでもやはり納得はできない。

心にモヤモヤした思いを抱えたまま、純とのダブルス練習を続ける大地。

そんなある日、大地の父親がちょっとした不注意で仕事をクビになってしまう。

その日以来、父親は部屋に閉じこもりっきりになる。
学校を卒業してからほとんど外で仕事をしないうちに結婚した母親は、自分でお金をかせぐ方法を知らず、途方にくれている。

子供たちの前では明るく振る舞っている母親だが、大地は、自分は卓球なんかやっている場合ではないのではないかと考え、新聞配達をしようと思い付くが、新聞配達は小学生にはできないと断られてしまう。

そんな中、ずっと専業主婦だった母親が、商店街の総菜屋で働くことになる。

これからは帰りが遅くなってしまうが、一緒に頑張って乗りきろうと、大地と小学2年生の妹と母親の3人は決意を新たにする。

しかし相変わらずひきこもっている父親は、ヒゲものびてよれよれのパジャマを着て、一人しょげかえっているという体たらく。
食事も別の部屋で一人で取るしまつ。

そんな父親を見て大地はなんだか情けなくなってしまう。
母親も自分も頑張っている。妹もさびしいのを我慢して頑張っている。頑張っていないのは父親だけなのではないか…。

そして父親に対し「こんなところに、こもってたって、なんの解決にもならないじゃないか」と思いの丈をぶつけるのであった……。


とまあ、児童向け作品とは思えないヘビーな人間ドラマが描かれていることに驚かされた。

なかなか重たい話を扱っておるなあ、と思っていると、母親がさらにスーパーのチラシ作りの仕事を始めると言い出したのでまたビックリ。

夜ならできると言う母親に大地は「朝から晩まで働いたら、病気になるじゃないか」と思わず怒鳴る。

そして父親への不満をぶつける大地であったが、母親はお皿を洗いながら大地にこう答える。

「父さんと母さんは、ふたりで一つのチームなの」
「チーム?」
「そう。母さんが大変なときは父さんが助ける。父さんが大変なときは母さんが助ける。チームってそういうものなのよ」


重い悩みを抱えて苦悩する大地であるが、ここにさらに、女子卓球部内のいざこざの相談まで持ちかけられるのだから、気の毒な小学生としか言いようがない。

部活と家庭の両方でやっかいごとに見舞われる大地だが、母の言葉をきっかけに、自分と純のダブルスについてきちんと考え、向き合うようになる。

本当のチームとは何か。
二人で助け合うとはどういうことか。


本作は、深いテーマがベースとなっていることで、単なる子供向け作品とは一線を画す重厚な作品となっている。

中高生にも読みごたえのある小説だと思った。

特に卓球を始めたばかりの中学生にオススメかなと思います。
登場人物たちに自分を重ね、一緒に成長していくような意識でシリーズを読み進めていくと楽しいのではないだろうか。

ちなみにこのシリーズは、巻ごとに主人公が変わるので「中学生編」とかにはならず、ずっと小学校卓球部が舞台のようです。

このへんの構成もなかなか面白そうなポイントですね。

よかったら手に取ってみてはどうでしょうか。

ということで、本日は以上です。