オリンピック直前ということで、改めて過去のオリンピックの名勝負を観ておるのですが、
今回取り上げるのはこちら

北京オリンピック男子シングルス決勝戦
王皓vs馬琳





前回取り上げたアテネオリンピックから4年後の決戦です。

アテネオリンピックに続き、2大会連続の夢のペンホルダー対決。

王皓(24歳・世界ランキング1位)は前回のアテネオリンピックの決勝で韓国の柳承敏に敗れ、その後しばらくはその夢を見たという。苦悩の日々を経て、リベンジにかける想いは強い。

一方の馬琳(28歳・世界ランキング2位)は、実力はあるが世界選手権やオリンピックではまだ優勝できていない。
是が非でもここでチャンピオンになりたいという想いがある。

この試合にかける想いがあまりにも大きい2人による対決である。
特に馬琳は、3度世界選手権の決勝で敗れているという過去があり、年齢のことを考えるとこれがラストチャンスになる可能性が高い。
そんな金メダルへの執念が生んだ馬琳のミラクルなプレイも随所で見られる。

背負うものが大きい2人のピリピリとした緊張感の中での壮絶な試合は、もう凄いとしか言いようがないくらいハイレベルな内容である。

結果的には心技体が充実した馬琳の神がかった卓球に軍配が上がった。

だけどこれが翌年の世界選手権横浜大会での王皓の優勝に新たなドラマ性を与えることになるのだから、いち卓球ファンとしては卓球観戦冥利に尽きるというものである。


そんなドラマ性たっぷりな2人の対決となった北京オリンピックであるが、ここにもう1つ見えないドラマが隠れているのですね。

それは「師匠が同じ」ということ。
呉敬平コーチというのがその人物であるが、この人は「ペンホルダー育成の神」と呼ばれている人物で、王皓と馬琳は絶大な信頼を寄せている。

王皓の呉敬平コーチに対する気持ちは「肉親への感情と同じか、それ以上」なのだという。

「僕にも呉敬平コーチにかかるプレッシャーがわかります。呉敬平コーチはこれ以上ないくらいまじめな人で、すべてのエネルギーを僕と馬琳に注いでくれています。呉敬平コーチの指導は隅々にまで気配りが行き届いたものです。例えば、バックハンドのサイドスピン打法あるいはフォアハンドのフリック(払い)など、彼は劉国梁監督やその他のコーチたちと何度も意見を交換し、共通の認識を持つようにしています」
(卓球レポート2008年11月号より)

また、オープン大会出場のために遠征する場合、呉敬平には選手に随行する任務はないが王皓は、飛行機代は僕が出すから自費で来てもらえないか、とまで言うのだとか。


一方馬琳は、もともと裏面に粒高ラバーを貼っていたが呉敬平が裏ラバーに変えさせ、そこから手探り状態の中で一歩一歩、二人三脚で歩んできたという。

王皓も馬琳も、呉敬平コーチあっての選手ということだ。


そんな呉敬平は、自分の知識や経験をこれからの人に伝えようと思い、本にしようと考えた。
しかし、原稿を半分まで書いたあたりで、本を出すことが王皓の技術上の秘密を漏らすことになると恐れ、執筆を中断したという。

その時に本を書き上げるように励ましたのが王皓と馬琳だった。

そして本は無事に脱稿し『ペンホルダー裏ソフト型の打法の練習方法』として出版された。


呉敬平は愛弟子2人について、こう語っている。

「馬琳と王皓が北京オリンピックで素晴らしい成績を勝ち取れば、それこそが私の仕事に対する最高の評価になります。私は彼らにこう言っているのです。『私にコンマは打たないでくれ。ピリオドを打ってくれ』と。私からすれば、もし彼ら2人が男子シングルスの決勝に勝ち進んでくれるようなことがあったら、それこそが完ぺきなピリオドになるのです」
(卓球レポート2008年11月号より)

この言葉通りになっているから凄いよね。

こうした「兄弟弟子対決」という裏側のドラマを知った上でこの決勝戦を観ると、また違った味わいがあるっちゅうことですね。


呉敬平コーチを取材したドキュメント番組?(中国語です)



ちなみに、呉敬平は2014年に許昕の担当コーチになっている。
許昕のあの常人ならざるプレースタイルの陰にも呉敬平コーチの存在があるんですねぇ。

そんな凄いペンホルダー育成の神様が書いたという『ペンホルダー裏ソフト型の打法の練習方法』をぜひ読んでみたいと思うのだが、はて、いったいどこに売っているのやらわからない……。


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