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『卓球 カットマン編』藤井基男(著)

卓球〈カットマン編〉 (基本を学ぶために)


実にシンプルなタイトルです。
表紙は松下浩二さんと渋谷浩さんのカットマンダブルス(世界3位)。
裏表紙は90年代に活躍した北朝鮮のカットマン、リ・グンザンという、まさにカットマンのための本であることが一発でわかる本です。

1990年出版のこの本の著者は、日本初のシェークハンドカットマンで「日本カットマン界の父」とも言える人。

本書は、「スポーツの基本を学ぶ」というシリーズの卓球編である。

そう聞くと、ごくごく基本的なことだけが書かれているだけの本に思えるが、そこはひと味違う。

最初のページは「カットから始めるか ツッツキから始めるか」というテーマで始まる。

いきなり深いではありませんか。

「カットマンを教えるときに、カットから始めたほうがいいか、それともツッツキを最初に教えたほうがよいか」という質問を、あちこちで受けたことがあるという藤井さん。
藤井さんはその問題に対し、次のように答える。
 私の答えは、こうである。「カットから始めたほうがよい」。
   なぜなら、カットマンにはカットにあこがれて、カットのラリーにあこがれてカットマンになるからである。渋谷浩選手なり、松下浩二選手なり、あるいは抜群の動き・守備範囲を誇るリ・グンザン選手のすばらしいカットを見て、自分もカットマンになりたいと思った人にとって、カットと違うもの、あこがれと違うものから最初に学ぶ(練習)のは、本人の卓球に対する興味・興奮の持続ということからして、マイナスだと思うからである。

技術的な視点からの答えではなく、心理面という視点で考えているところが深い。

初っぱなからこうした内容で始まるのだから、これだけでもう、ただの基本書ではないなと思わせてくれる。


本書の中で藤井さんは「カットマンは振り(スウィング)の速さが大事」ということを繰り返している。

振りが遅い場合のマイナス点として藤井さんは「強ドライブに対して、安定したカットができない」「カットがよく切れない」
そしてもうひとつ「スウィングの開始を早くしなければならない」という点を挙げている。

   プロ野球の王貞治選手が、3冠王になっていた全盛期の頃のこと。日本のプロ野球選手で振りのもっとも速いのが、王選手である。このため王選手は、他の選手よりもバットを振り始める時間がおそい。ということは、他の選手よりもボールを見ている時間が長い。だから、あれだけの成績を残しているのだ……。ということを聞いたことがある。
   卓球でも、振りが遅ければ、0.何秒かの時間だけ早く振り始めなければならない。態勢不十分のときに0.何秒かを早く振り始めることは、不安定のもとだ。その上、「次はカットですよ」ということを、必要以上に早くから相手に知らせてしまう(情報を与える)というマイナス面もある。

こうした考えから藤井さんは、「正しいフォームで振ることよりも、より速く振ることを常に心がける」ことが大事であると語っている。


また、カットマンの精神的な部分について「ノータッチでは抜かれないぞ」という意識の重要性を語る。

   私が大学時代に心がけたこと。それは「1日の練習の中で、“ノータッチでは1本も抜かれないようにしよう”」ということだった。実際には、1日に何本かノータッチをくらう。だが、このように心に誓って練習をすると、驚くような効果が数ヶ月後に表れることを経験した。
   どんなボールでも追いかける。あきらめない。あきらめていればノータッチで抜かれるようなボールでも、とにかく追いかけてラケットに当てようとする。そういう積み重ねの中で、守備範囲が広がり、ラケットに当たったうちの何本かは返せるようになる。また、どんなボールに対してもあきらめない精神が養われる。
   スマッシュに対しては、最初のうち取れなくてもいいから、ノータッチだけはくらわないようにしよう。必ずラケットに当てるんだ、という気持ちでボールを追いかける。これが、スマッシュに対して強くなるための原点である。そしてこのような気持ちで練習を積み重ねると、ダッシュ力が「あきらめる人」よりも余分に養われる。


技術論と精神論の両面から、初級・中級者カットマンに必要なことが丁寧に書かれてあるのが本書だ。


20年前の技術があり、10年前の技術があり、それら先人の知恵の上に現在の最先端のカットマン理論は成り立っている。
過去の理論を学ぶことは、最先端の技術を学ぶ上でも非常に有益なことだと思う。

カットマンの父が書いた、深~いカットマンの基本書、機会があれば読んでみてはどうでしょうか。